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長崎地方裁判所 昭和30年(わ)364号 判決 1958年12月01日

被告人 浦利男 外二名

主文

一、被告人浦利男を懲役七年に

同松本正士、同山本勝市を各懲役一年に処する。

二、被告人浦利男に対し未決勾留日数中二百五十日を右本刑に算入する。

三、押収してある匕首一振(昭和三十年(合)第五七号中第一号)を被告人浦利男から没収する。

四、本件公訴事実中恐喝の点につき、被告人山本勝市は無罪

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人浦利男は、昭和三十年七月十六日午前一時十五分頃、長崎市市寄合町丸山公園内共同便所裏において、坂中葆幸が酩酊して同被告人に些細なことから因縁をつけ暴言を吐くのに痛く憤激し、同人を死に致すことがあるかも知れないことを予見しながら、所携の匕首(昭和三十年(合)第五七号中第一号)をもつて同人の右上腹部を突き刺し、よつて、同人をして同日午前二時十五分頃同市広馬場町一番地十善会病院において右上腹部刺創に基く失血のため死亡するに至らしめ、

第二、被告人浦利男、同松本正士は、共謀の上、さきに長崎市寄合町三十五番地貸席業「新油屋」こと岡田智津子方給仕婦夫津木和子が被告人松本について同店から逃走したのを同店に連れもどすことについて、右逃走期間中の経費及び謝礼金の名目で前記岡田から金員を喝取しようと企て、昭和三十年七月十四日頃、前記岡田方において、同女に対してその身体財産に危害を加えるような態度を示して金員を強要し、よつて、畏怖した同女をして同日頃現金千円及び金額一万円の小切手一通を交付せしめてこれを喝取し、

第三、被告人山本勝市は、

(一)  昭和三十二年二月頃から長崎市寄合町十六番地浜武鉄男方に寄食していたが、同年五月二十二日頃同人の妻浜武フミから営業に差支えるから出てくれと云われたことに不満を持ち、翌二十三日午前二時頃日本刀(昭和三十二年(合)第六一号中第一号)を携えて前記浜武方に赴き、同家帳場前廊下において、右フミに対し、「お世話になつたがしようがない。俺も馬鹿だからやる時にはやる。」等と云いながら前記日本刀を抜き放ち、あたかも同女に斬りつけるような態度を示して脅迫し、

(二)  法定の除外事由がないのに、前記(一)記載の日時場所において、刄渡り約一尺八寸の日本刀一振(昭和三十二年(合)第六一号中第一号)を所持し、

(三)  柿山穂積と共謀の上、同年四月六日頃長崎市丸山町五番地貸席業「船場屋」こと小吉シナ方において、貸席業「三島屋」こと江島孝治に対し、かねて求職の依頼を受けていた亀川光子を売淫を業とする同店従業婦として就職のあつせんをし、もつて公衆衛生及び公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業の紹介をし

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

法律に照らすと、

被告人浦利男の判示第一の所為は刑法第百九十九条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、判示第二の所為は同法第二百四十九条第一項第六十条に該当するが、同被告人には前示(I)の(1)の前科があつて本件各罪とそれぞれ累犯関係にたつので同法第五十六条、第五十七条にしたがつて(殺人の罪については同法第十四条の範囲内で)法定の加重をするが、同被告人には前示(II)の(1)の確定判決を経た罪があつて本件各罪とは同法第四十五条後段の併合罪であるから同法第五十条にのつとり未だ裁判を経ない判示各罪につき処断すべく、同法第四十七条、第十条第十四条にしたがい重い殺人の罪の刑について法定の加重をした、刑期範囲内で同被告人を懲役七年に処し、同法第二十一条にしたがい未決勾留日数中二百五十日を右本刑に算入し、なお、押収してある匕首一振(昭和三十年(合)第五七号中第一号)は被告人が判示第一の犯行に供したもので犯人以外の者に属しないことが明らかであるから同法第十九条にしたがい同被告人からこれを没収する。

被告人松本正士の判示第二の所為は刑法第二百四十九条第一項第六十条に該当するが、同被告人には前示(I)の(2)の前科があつて判示の罪と累犯関係にたつので同法第五十六条、第五十七条にしたがつて法定の加重をし、なお、同被告人には前示(II)の(2)の確定判決を経た罪があつて判示の罪と同法第四十五条後段の併合罪であるから、同法第五十条により未だ裁判を経ない判示の罪について処断すべく所定刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処する。

被告人山本勝市の判示第三の(一)の所為は刑法第二百二十二条第一項に、同第三の(二)の所為は銃砲刀剣類等所持取締法附則第九項、銃砲刀剣類等所持取締令第二条、第二十六条第一号に、同第三の(三)の所為は職業安定法第六十三条第二号刑法第六十条に各該当するので所定刑中懲役刑を選択するが、同被告人には前示(I)の(3)の前科があつて判示各罪とそれぞれ累犯関係にたつので同法第五十六条、第五十七条にしたがい法定の加重をし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条、第十条、第十四条にしたがつて法定の加重をし、その刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処する。

なお、各被告人について、刑事訴訟法第百八十一条第一項但書にのつとり、訴訟費用は全部負担させないことにする。

(無罪)

被告人山本勝市に対する公訴事実中、同被告人が被告人浦利男、同松本正士と共謀の上、昭和三十年七月十四日頃長崎市寄合町三十五番地岡田智津子方において、同女より現金千円及び金額一万円の小切手を喝取した旨の事実について考えると、裁判官の証人岡田智津子に対する尋問調書及び第七回公判調書中証人岡田智津子の供述記載によると、被告人山本は同浦と共に昭和三十年七月十四日頃、右岡田方に赴き金員を要求した事実はうかがわれるが、右証拠をもつてしてもその際被告人山本が岡田に対して脅迫的言辞を弄したことを十分肯認するに足りず、かつ、被告人浦、同松本はその後も数回にわたつて岡田に金員を強要して遂にその目的を達したことが認められるのに反して、被告人山本については右のような事実を認めるに足る証拠はない。もともと、本件は被告人山本において被告人松本が連れ出した夫津木和子を同被告人を説得して岡田方に連れもどしたことに端を発した案件であつて、被告人山本としては、右岡田に対して右行為に対する相当の謝礼を要求できるものと軽信したところから、一旦はこれを要求したものの、同女に拒絶されるや、更に重ねてあくまでも金員の交付を強要するまでの意図を有していたことを認めるに足る証拠はない。してみれば、被告人山本に関する限り、前示認定の事実のみをもつて、直ちに、同被告人が被告人浦、同松本らと本件恐喝を共謀した事実までも推認することはできない。

右の外、被告人山本については、右恐喝の公訴事実を肯認するに足りる証拠は存しないから、結局犯罪の証明がないことに帰し、刑事訴訟法第三百三十六条にのつとり無罪の言渡をすべきものである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 臼杵勉 関口文吉 諸江田鶴雄)

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